“八町大路”を臼杵川に向かってそぞろ歩いて・・・小さな路地を右に曲がって“浜町界隈”へ・・・古くからの商家の街並みが続きます・・・。
「野上弥生子文学記念館」をめざせば・・・その隣が、創業150年の蔵元「小手川酒造」です。この記念館こそ・・・夏目漱石の弟子であり、女性として2番目の文化勲章受章者・・・「秀吉と利休」などの代表作で知られる作家“野上弥生子”の生家である小手川酒造の旧母家なのですから・・・正確には、蔵元の一部が記念館となっているというべきでしょうね・・・。 実は・・・蔵元の正面にある味噌醤油の“小手川商店”で昼食をお願いしたところ・・・「出来上がるまでちょっと時間がかかりますから、酒造さんのご見学をお願いできますか。」と・・・道を挟んで、一声かけていただきました・・・。 6人ほどで、蔵元に伺うと・・・一見(いちげん)の観光客である我々を・・・笑顔で快く迎えてくれた蔵の方・・・思いがけず・・・“蔵見学”と相成りました・・・。 “漆喰の白壁”の間口を中へ入れば・・・古くからの佇まいがそのまま今も活きている“酒造り”の空間・・・漂う空気にも“地霊”が宿るような・・・老舗の拘りを垣間見ることができます・・・。 入って正面は・・・手前に商品陳列棚があって、ガラス越しの事務所となっています。 ご案内くださる蔵方さん・・・「ここは、安政二年(1855年)創業で今年でちょうど150年となります。酒造りからはじめて、その後、味噌や醤油もつくり、フンドーキン(小手川商店)さんも元は、同じだったんですよ。」と・・・。 左側から奥へ土間がつながっています・・・。その薄暗い壁沿いに・・・“木樽”に使っていた竹の“箍(たが)”をアレンジしたと思われる円形の飾り棚・・・南蛮交易に使われたような“JAPANSCHZO・・・”と呉須書きされた陶瓶・・・。 手前の“盆庭”の白い敷石に見えるのが・・・宇佐産“はだか麦”だそうです・・・そう、小手川酒造渾身のはだか麦黒麹仕込み焼酎「羽衣」や「麦香醉」の原材料となる麦です・・・。 いかにも酒蔵らしい・・・小粋な“迎え飾り”の脇を通り・・・その奥の土造蔵へ案内していただきます・・・。 昔ながらの土造蔵・・・蔵内に貯蔵されている大きな甕が見えます・・・。 蔵の中・・・子供の背丈ほどはあろうかという大きな甕には・・・“蒸留年”と“ロット・ナンバー”と“容量”が記載されていますね・・・。 長期貯蔵されている甕の中身は・・・もちろん黒麹仕込みの麦焼酎・・・甕にのせた木蓋を少し開けて・・・「どうぞ、嗅いでみてください。原酒ですから・・・好い甘い香りがするでしょう・・・。こうして、甕で寝かすことで、より円やかになります。10年以上貯蔵してあるものもありますので、年月を重ねるほどいい味わいになります。」と・・・言葉にも、味わいに込める自信が伺えますね・・・。 甕に、鼻を近づけると・・・ホントに“甘~く”・・・品のいい香り・・・です。(もう・・・既に“パブロフの犬”状態の私・・・) 土造蔵を出て奥へ向かうと・・・精麦原料を浸す大きな“木桶”とそれを蒸しあげる“蒸し釜”・・・。 数日前にも・・・この蒸麦したとのことで・・・「今は、焼酎の素となる“モロミ”になって、ブクブクいっていますよ。」と・・・。 その奥にある堂々とした風貌の連なる木樽こそ・・・“杉樽蒸留機”。 「この木樽で蒸留すると、木の良さが蒸留した焼酎にも“映る”んですよ。杉樽独特の良さがありましてね。」と・・・「今年、その杉樽を造り替えたんですよ。」 右の杉樽・・・確かに“新調”されています。この杉樽造りの工人も・・・すでに県内ではいないそうで・・・鹿児島にはまだいるとのことでしたが・・・この樽は、東京の会社に依頼して造ったそうです・・・。 「胴が膨らんだこの本来の“樽型”は、そこも造ったことが無かったらしくて苦労したそうですよ。杉は、木目の積んだ“吉野杉”です。今年、これで蒸留する焼酎の仕上がりが楽しみでねぇ。」と・・・。 一見の飛び込み客でありながら・・・こうやって・・・醸す蔵方の“現場の想い”を聞くと・・・私でなくとも・・・今年できた焼酎を味わってみたくなります・・・(笑)。 当然ですが・・・品質に関わるような“麹室”や“もろみ”などの現場は、見学コースではありませんので・・・無理難題は慎みましょうね・・・。 一回りして・・・正面の商品陳列棚の前に戻ってくれば・・・当然の如く・・・皆各々、好きな銘柄を手にとって、御猪口で“試飲”です・・・。 造り酒屋の原点となる清酒は・・・「宗麟 上撰」と「原酒 宗麟」のみ・・・純米酒や吟醸酒などは造っておらず・・・この濃醇で上品な甘口は・・・気どらない上品さがありますね・・・本醸造らしい“熱燗”で飲んでみたいです・・・。 そして・・・30年ほど前に始めたこの蔵の麦焼酎の原点・・・「白寿」・・・キレのある福与かな淡麗甘旨口・・・。 私が驚いたのは・・・これです、これ!・・・見慣れぬ25°の“青箱”と21°の“赤箱”・・・。 ギョェ!なんと!・・・蔵元店頭販売限定の“正調粕取焼酎”・・・『王妃 イザベル』・・・?。知りませんでした・・・。 「これは、売れずに蔵に残っていたモノで、創業150周年に合わせて、出してみたんです・・・」と・・・。 ツッコンで、聞いてみました・・・小手川酒造さんが22年前に醸した“最後の粕取焼酎”だそうで・・・創業150周年に合わせて・・・瓶詰めしたモノだそうです・・・。 「ずっと、日本酒の造り酒屋ですから、“麦”焼酎造りをはじめたのが30年前で、それ以前から“粕取”はずっと造ってましたよ。ただ、当時は、“副産物”のような感じで造ってましたから、味は今の“吟醸粕”などで造るものから比べると、それほどでもないですがね。」と・・・。 早速、試飲です・・・。籾殻風味が古慣れて、抜けた感じの殻苦さの甘みが味わいえました・・・。 21°と中途半端な度数は・・・アルコールが抜けていたためかもしれませんが・・・どちらかと言えば25°の方が・・・味わいがあるようです。もちろん・・・買っちゃいますよね・・・(笑)。 ちゃんと御礼と感謝の気持ちを述べて・・・出ようとすると・・・木樽に立掛けられた“水口酒造”の看板と・・・清酒“向ひ鶴”の一升瓶・・・。 映画「なごり雪」の中で使われた小道具だそうで・・・この蔵がロケで使われたことから・・・いただいたものだそうです・・・。 いやぁ~・・・来て見るもんですなぁ・・・。 こんな“一期一会”も・・・臼杵の“バッカス”神が与えたもうた・・・すばらしい焼酎との出会いかもしれません・・・。
by project-beppin
| 2005-12-23 13:52
| 焼酎文化考
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